今更『笑酔亭梅寿謎解噺』絶賛!
2005-11-15


禺画像]
『笑酔亭梅寿謎解噺』(田中啓文/集英社)がすばらしい!
去年の暮れに出た本のことを言ってどうしますの?
でも今読んだからしゃあないです。
それに、いわゆる「年間ベストテンもの」って、去年の11月〓今年の10月までに刊行されたものを対象に選考されることが多いはずなので、今ゆっても問題ないんじゃ!

先日、ミステリチャンネルの「闘うベストテン」という番組の観覧にいきまして、
大森望さんの褒めっぷりがステキだったので、読んでみたのでした。

舞台は現代の上方落語界。
家族に恵まれない天涯孤独のヤンキー、竜二は、
強制的に上方落語界の重鎮、笑酔亭梅寿の内弟子にさせられる。
この梅寿がおそろしいじいさんで、
酒の飲めない弟子の耳から日本酒を注いだり、
お銚子で頭がへこむほど、殴ったり、
だいたいが大酒飲んで酔っぱらってて、ヤクザに借金もあって、
と、むちゃむちゃ強烈。
でも、芸は天下一品。
落語なんか好きでもないのに、この世界に入ってしまった竜二は、
師匠にも古典にも反発しながらも、圧倒的な梅寿の芸に魅せられていく。

ジャンルとしては、ミステリ。
連作短編形式ですすむ7つの物語にはそれぞれ、
「たちきり線香」「らくだ」「時うどん」「平林」「住吉駕籠」「子は鎹」「千両みかん」
と古典落語の題名がつけられていて、
それは各物語の中で梅寿やその弟子や、竜二が高座にかける演目であり、
演目の内容とリンクする事件(ときには殺人も!)がおき、
その謎を竜二が、解く。
また、そうした過程を通して、竜二は演目や落語のキモを理解していく。
「住吉駕籠」では駕籠かきをタクシーに置き換えるなど古典を現代解釈で演じたりする試行錯誤もありながら、
「子は鎹」のエピソードでは、師匠のじぶんへの思いを知ることで、生まれてから知ることもなかった家族の意味をつかみかけたりしながら、
落語家として成長していく。

あれ? あの人気ドラマと設定がよく似てますね。
でも、発表されたのはこの本が先です。

まあ、それは置いといて。
ドラマは若い対照的なふたりの落語家志望者を描いていたけれど、
この本ではなんといっても、師匠の梅寿の破天荒さがステキ。
破天荒なんだけど、一本スジが通っているから憎めなくて。
で、師匠は新作落語を演じたがる竜二を否定するんです。
古典なんてふるくさくて退屈なだけや
と、竜二は、師匠を裏切って新作落語を演じ、破門され、いったんは漫談の世界に入ったりするのですが、
最後にある境地にいたります。本文より引用します。

(そうか……そやったんか!)
なぜ落語はおもしろいのか。繰り返し繰り返し稽古して、繰り返し繰り返し演じられるネタが、どうしてすりきれてしまうことなく、人の心を魅了しつづけるのか。
 それは、落語の基本が「情」だからである。人間が人間であるかぎり、「情」はどれほど繰り返されても滅びることはない。
(「子は鎹」より)

……不覚にも、感動しましたね。部分的に引用しちゃうと「ふつーじゃん!」って感じの文章かもしれませんが、『笑酔亭梅寿謎解噺』には、この一節を、理屈ではなく読者に実感としてずしーんと届ける力がある。
てらいのないぶん、説得力がすごい!
作者が古典落語を本気で好きで、その思いが物語をつくる根底にあるからこそ、ここまで感動させられるのだと思った。いわば萌えの神髄ですよ、古典落語萌え。

で、エキサイトブックスの「ベストセラー本ゲーム化会議」連載から、単行本

続きを読む


コメント(全2件)


記事を書く
powered by ASAHIネット